プリント基板をつくってみる 〜Fusion PCBレビュー〜

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前回ようやく完成まで漕ぎ着けた、『Nintendo Switchをちょっと楽しくするスイッチ』。自分は本格的に電子工作を始めて3年目ぐらいですが、今回初めて、自分の作品に自作プリント基板を導入しました。

元々、amiiboオルゴール食玩コンセレアークル、オリジナルガシャット(マリオスマブラ)を作っていたときから、その配線のあまりの煩雑さに、『プリント基板を作れればもっとスッキリまとまるのに!』という思いはずっとあったのです。ただ、どれもこれも一品ものの作品として作っていて、再生産をするつもりはなかったので、結局プリント基板なしのゴリ押しで作ってしまっていました。

今回作った『Nintendo Switchを(中略)スイッチ』は、自分の作品の中では初めて、「ちょっとだけ量産してみても良いかも」と思える作品になりました。構造としてはかなりシンプルな割に、それなりに面白いものだったので。

しかし量産となると、プリント基板なしでの制作はかなり厳しくなります。実際、最初に作ったものはユニバーサル基板上に手配線したものでしたが、あんなものでも数時間かかってしまっているのです。

そんなわけで、そろそろいい加減プリント基板の勉強しようかなあどうしようかなあと迷っていたところに、たまたま丁度、Seeed社の方からウチのブログにコメントを頂きました。なんでも、「プリント基板を作るサービスの日本語サイトをオープンしたので、ぜひ使ってみませんか」とのこと。

これは渡りに船というか、なんかもう今このタイミングでやれという天の啓示かなあと思いましたので、頑張ってチャレンジしてみることにしました。

ということで、随分前置きが長くなりましたが、個人で使えるプリント基板制作サービス『Frsion PCB』の利用レビューです。

 

まずはとにもかくにも、設計図を作るためのお勉強です。自分はソフトを書くスキルは多少はありますが、回路設計については全くの初心者ですので。

設計図を作るためのソフトウェアはいくつかあるみたいですが、とりあえずEagleというのが有名みたいなので、これの使い方を勉強します。自分は以下を参考に勉強させて頂きました。

こちらでEagleの基本的な操作方法は一通り学べると思います。ただ、結構長い連載記事ですので、一通り学習した後、「あれ、そう言えばあれはどうするんだっけ?第何回目の記事だったっけ?」となることがあります。

そういうこともあって、自分は以下の書籍も購入しました。上記の記事を書いてくださった方が、改めて書籍向けに内容を整理して書き下ろしてくださったものです。

情報を探すときは、やっぱり本が手元にある方がラクです。

ちなみに、先のサイトの執筆時点からいくつか情報がアップデートされていて、ありがたいことに、実際のプリント基板発注時の手順として、今回私が利用しているFusion PCBを例に説明してくださっています。ということで、Fusion PCBを使おうと思っているプリント基板制作初心者の方には、超オススメの一冊です。

 

これらの資料を参照しながら、まずは回路図を作成。こんな感じです。

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Eagleを使い慣れた方からすればツッコミどころはあるかもしれませんが、とりあえず今の自分にできる精一杯がこれです。

続いて、上記の回路図をから作成した、実際のプリント基板の設計図がこちらです。

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配線の部分はEagleがほとんど自動でやってくれますが、細かいところは手作業で微修正しています。このあたりのやり方も、先の書籍でフォローされています。

 

さて、どうにかこうにか設計はできたので、早速Fusion PCBにオーダーしてみます。

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私が申し込んだ時点では、通常10枚9.9ドルが4.9ドルとお買い得になっていました。1ドル114円換算で560円ぐらい。やっすい。ただ、この価格はあくまでFusion PCBで最も基本となる構成で申し込んだときのみに適用される価格なので、注意が必要です。後ほど改めて説明します。

とりあえず、「今すぐ発注」ボタンをクリックします。

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この画面になるので、ページの上の方にある「ガーバーファイルを追加」というボタンをクリックします。すると、ファイル選択の画面になるので、Eagleで出力した以下の8つの拡張子のファイルを固めたZIPファイルを指定してください。

  • xxxxxx.GTL
  • xxxxxx.GBL
  • xxxxxx.GTS
  • xxxxxx.GBS
  • xxxxxx.GTO
  • xxxxxx.GBO
  • xxxxxx.GML
  • xxxxxx.TXT

それぞれの詳しい意味は、上記の書籍をご参照ください。

 

さて、アップロードに成功すると、画面がちょっと変わります。

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「ガーバーファイルを追加」のボタンの下に「ガーバービューア」というリンクが出現します。こちらをクリックすると、

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自分が作成した設計図の完成イメージが表示されます!

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背面もこのとおり。

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実際に制作を依頼するときには基板の色(レジスト色)を指定できるのですが、デフォルトの緑から変更したときにどうなるのかも、ここで確認できます。

さて、自分なんかは基板制作が初めてでしたので、この時点でもう「できてるやんけ!」と感動してしまったのですが、皆様は感動のあまり「この基板で発注をかけてしまって本当にOKか」のチェックが疎かにならないよう、十分にご注意ください。ここが発注前の最後のチェックポイントになりますので、念には念を重ねるぐらい、入念にチェックしてください。

なぜこんなに念を押しているかというと、自分が実際に一回、やらかしてしまっているからです。これはまた、後ほどご説明致します。

 

さて、ガーバービューアでのチェックが済んだら、発注内容の詳細を決めていきます。

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基本はデフォルト設定のままで、自分が設定し直したのは

  • 寸法(100 x 100 → 22 x 80)
  • レジスト色(緑 → 黒)
  • 基板の表面処理(HASL → HASL Lead Free)

の3つだけです。

ここで合計金額の欄を見て頂きたいのですが、”USD$12.90“となっています。「あれ、$4.90じゃなかったの??」と言いたくなるところですが、これは基板の表面処理をHASL(有鉛半田) → HASL Lead Free(鉛フリー半田)に変更したことによるものです(レジスト色の変更は無料でできます)。

自然環境のことを考えると、できれば鉛フリー半田を使用した方がいいと思います。通常であれば、(おそらく)$9.90が$12.90になるのであって、そこまで大きな追加費用にはなりません。ただ、今はサービス期間中で、$9.90ではなく$4.90がスタートなので、2倍以上の費用を払うことになってしまいます。

私個人の意見としましては、自然環境に対する意識が(※良い意味で)高い人であっても、初めてプリント基板を発注するときだけは、有鉛半田$4.90で発注してしまって構わないと思います。なぜなら、最初の一回目は、自身の設計した基板にミスがあることに気づかないままに発注してしまう可能性が高いからです。そうなると、最初の一回目の発注でできた基板は使えないものになってしまい、修正した設計で改めて発注し直すことになります。そうやって一度失敗し、確度が上がった時点で、以後の発注を鉛フリー半田に切り替えればよいのではないかと思います。

 

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発注内容の設定が済んだら、「カートに追加」ボタンをクリックして、右上のカートのアイコンから支払いに進みます。

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配送先を英語で入力した後、配送業者を選択します。現時点では3つの業者から選ぶことができ、Singapore Postを選ぶと5ドル程度送料を節約できますが、その分恐ろしく到着が伸びてしまうようです。私はデフォルトのDHLを選択しました。

結果、送料は15.41ドルほどかかってしまうので、いくら4.9ドル(私は鉛フリー半田を選んだので12.90ドル)で基板を作れると言っても、送料をプラスすると結局2,500円程度にはなってしまいます。これはもう、国外生産・輸送ですので仕方がないです。それでも充分安いと思います。

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最後に支払い方法を選択して、支払いを済ませます。PayPalが使えるので便利。

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無事に注文が完了すると、この画面になります。おつかれさまでした。

 

さて、注文が完了するとすぐに、SeeedStudioから以下の件名の受付メールが届きます

[SeeedStudio] Your order xxxxxxxxxx has been confirmed.

自分の場合は、注文が完了して上記メールを受け取ったのが、6/30の23:45頃です。

そして翌日、7/1の21:44頃に以下の件名のメールが届きました。

[SeeedStudio] Your order xxxxxxxxxx PCB in Production.

。。。早!サービスを利用する人がまだそこまで多くないのか、オーダーした翌日に生産開始の連絡が来ました。

そこから4日後、7/5の18:42頃に、

[SeeedStudio] Your order xxxxxxxxxx has Shipped.

とのメール。そして、

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7/7の夕方に到着。

つまり、注文した翌日に生産開始、5日後に発送、7日後に到着です。うーん、思った以上に早かったです。本当に国を超えて来たのかと思うぐらい。今回はたまたま色々スムーズにいっただけなのかもしれませんが、それでも現状は10日もあれば手元に届くのではないかと思います(配送業者にDHLを指定した場合)。

 

さて、開封してみましょう。どきどき。

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こんな感じのパッケージに入っていて、これをさらに開けると、

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こんな感じでパックされて、発注した基板10枚が入っています。

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で、これが実際に製造された、『Nintendo Switchを(中略)スイッチ』のためのオリジナル基板です。感動。。。

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比較的シンプルな設計だからかもしれませんが、ガーバービューアで確認したものがほぼそのまま生産された感じです。

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TrinketやDF Playerがちゃんと挿さってくれるかが一番心配なポイントでしたが、無事に挿さり、きちんと動作してくれました(前回記事参照)。良かった良かっためでたしめでたし。。。

 

 

と、スムーズにコトが進めば良かったのですが、実はそんなことは全然なく。

 

上の方でちょっとだけ述べましたが、実は先に一回失敗しています。ここまで記載していたのは、二回目の発注時の記録です。

 

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こちらが1回目に発注してできた基板です。パッと見は、二回目に発注したものとほとんど変わりません。抵抗の向きが縦か横かの違いぐらいです。

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抵抗やDF Playerも問題なく挿さります。あとはTrinketだけです。

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Trinketだけです。

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。。。挿さりません。。。

 

よくよく設計図を見直してみたら、Trinketの穴の位置が0.1インチ(ブレッドボードの穴1個分)ずれていました。Eagle向けのTrinketのデータ見つからなかったのでパッケージを自作したら、こんな結果になってしまいました。ちゃんと測って作ったハズなのに、思い込みって怖いです。。。

 

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幸い、内側ではなく外側に穴一個分広く作ってしまったので、無理やりTrinketをブレッドボードに取り付けるのは比較的簡単でした。

ところが、さらにもう一個、やらかしてしまっていました。TrinketからDF Playerへの電力供給が行われていないようなのです。

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改めてガーバービューアで設計図を見直してみると、確かに、本来配線されるべきはずのところが配線されていません。回路図から設計図を起こしたときには存在していたハズなので、どの段階で消えてしまったのか。。。自分では見当がつきません。なにより、このガーバービューアでの確認のときに何故気づけなかったのか。。。初めてガーバービューアで自分の設計した基板を見て浮かれていた、深夜だった、翌日海外出張で焦っていた等々、色々理由はありそうですが、とにかくこれは本来、防げたはずのミスです。お金と時間を大いに無駄にしてしまったので、これから初めて基板を発注する人は、くれぐれもご注意くださいませ。

 

というわけで、Fusion PCBを使った初のプリント基板制作のお話でした。送料込みで2,500〜3,500円程度のお金はかかってしまいますし、ミスしたときのダメージはそこそこ大きいのは確かです。しかし、本一冊勉強するぐらいの労力で発注に必要な最低限のスキルは身につきますし、何よりやっぱり、基板を作ることができれば自分の作品の完成度や安定性が大いに向上しますし、またそれを量産することになったときには、制作に必要な労力が劇的に改善されます。メリットは多いと思いますので、やってみようかどうか迷っている人は、一度トライしてみることをオススメします。